組織が必要とする文書(7.5)
文書化の目的
7.5.1
組織の品質マネジメントシステムは、次の事項を含まなければならない。
a)この規格が要求する文書化した情報
b)品質マネジメントシステムの有効性のために必要であると組織が決定した、文書化した情報
文書化の最大の目的は『共有』です。
文書とは、『今何らかの作業を行っている自分』と、『自分以外の誰か(未来の自分自身も含む)』とが『ある業務を同程度に理解できるようにする』ために情報を共有するものといえます。
誰とも何も共有する必要がなければ、文書は必要ありません。
共有する相手は、組織の内部の人員だけではなく、第三者も含まれます。
この場合の第三者とは、審査機関あるいは顧客です。
組織に関する情報を共有するため、文書を整えておくことが推奨されています。
とはいえ、文書とは審査のために作るもの、という解釈は正しくありません。
ISOシステムが誕生した当初は、ISO=文書化という認識もあり、審査に通るため、単にISO規格をそのまま組織の規格にしたマニュアルを作ったり、手順書や文書を山のように作って苦労した、というケースも多々ありました。
しかし、改訂を重ねるにつれ、文書の必要性は少なくなり、2015年版では品質マニュアルの作成についても、必須ではなくなりました。
文書だけ、形だけのISOではなく、マネジメントシステムとしてきちんと「運用」することが重視されているためです。
文書化の位置づけを知る
2015年版のISO規格においては、
・ISO規格が要求している文書
・システムの有効性のために必要であると「組織が決定した」文書
の2つの文書が求められていますが、後者が優先されます。
つまり、手順書を何でも作るのではなく、自社中で何を手順書にすべきかを明確にするということです。
必要な手順書だけに絞ることが可能だという解釈もできます。
組織が必要とする文書を考えるために、まずは『7.1』〜『7.4』の流れを確認してみましょう。
7.1(資源):組織に必要な資源を明確にする(知識を含む)
7.2(力量):資源を運用するために、必要な力量を明確にし、教育する
7.3(認識):技能だけでなく、必要性を理解させる
7.4(コミュニケーション):正しく理解された人に、適切なコミュニケーションを行う。
しかし、教育やコミュニケーションだけでは共有できないものもあります。
そこで、文書化です。
7.5(文書化):教育やコミュニケーションで理解できないスキルやノウハウについて文書化する
つまり、
(1)文書化しないと共有できないもの
(2)文書化しなくても共有できるもの
これらを明確にし、(1)については文書化し、(2)については『何らかの形』で共有するようにします。
組織の中で、何が(1)で何が(2)なのか、判断するのは難しいと思いますが、以下、いくつかのポイントを述べたいと思います。
知識を共有するための文書
組織に作業手順や管理の記録があったとしても、曖昧になっていた部分があれば、規定書、標準書作りを行います。
個々のノウハウを共有化し作業手順を明確にすることで、誰もが同じ手順で作業できるよう標準化、効率化が行われ、時間や作業工程のムダも省けるようになります。
そうすることによって、新入社員、派遣社員などが入ったときや、アルバイトやパート社員が多かったり、人の入れ替わりの激しい職場でも、短期間で他の社員と同様の作業を行えるようになります。
これが「共有化」の基本です。
「言っただけで伝わらないもの」を共有するための文書
教育や周知活動で伝わらない部分について確実に共有化するためにも、文書はあったほうが良いでしょう。
例えば、私が住む福岡市では「燃えるゴミ」と書かれた指定袋があり、「燃えるゴミ」はその袋に入れて捨てることになっています。
燃えるゴミの回収日も指定され、啓発活動も行われていますから、「教育(周知)」を受けた市民はそのルールを守っています。
さて、このサイトは全国の方が読まれていると思いますが、福岡市以外にお住まいの方、「燃えるゴミ」とは、例えばどんなものかわかりますか?
いちいち書くと誌面がもったいないので、知りたい方は福岡市のホームページを見てください。
そこには『文字』で燃えるゴミのリストが掲載されています。
ただ「燃えるゴミ」と言っただけでは、具体的に何のことかわかりません。
文書にすることによって、曖昧なものを明確に形にして、皆で共有することができます。
トラブルを共有するための文書
過去に大きな事故があり、再発防止のためにルールや手順書が整えられるというケースもあります。
しかし、年月が経つうちにそのような事故は風化し、何のためにその手順書があるのか分からなくなることがあります。
すると、手順書が軽視され、ムダな文書だと思われることがあります。確かに業務と関わりがない場合、無理に手順書として残す必要はありません。
しかし、それは果たして「不要な文書」なのか。
そもそも何らかの理由があって手順書を作ったのなら、教育資料などとして活用する、といった方法もあります。
2015年版では、手順書という形での文書は求めていません。その代わりに新しい証拠となる資料が求められます。
教育資料も立派な文書の一つと言えるでしょう。
スリム化する前に
ISOシステムを運用するのに、あまりにも複雑なルールや膨大な手順書があると、作成するのも大変なうえ、うまく活用できず、ISOがお荷物になってしまうことがあります。
このため『ISOをスリム化したい』と考える組織も多いようです。
しかしスリム化とは、「手順書の量を減らす」、あるいは「マニュアルの分量を減らす」ということだけではありません。
「不要」な文書をなくすことが、スリム化だと思われることもありますが、その前に、そもそもなぜ「不要」なものが存在しているのかを考えてみましょう。
文書をスリム化したいのであれば、『何を共有したいのか』を考えてみてください。そのうえで、量を減らすためのスリム化ではなく、ISOをうまく活用するためのスリム化を行っていただきたいと思います。
