ISOコンサルタントの三村聡が、ISOコンサルタントの仕事、コンサルタントがすべきことについて語ります。

コンサルタントと審査員

「ISOコンサルタントになるにはどうすればよいのでしょうか」
そのような質問を受けることがあります。

世の中には「○○コンサルタント」と名乗る人はわんさかいます。ITコンサルタント、キャリアコンサルタント、片付けコンサルタント……といろいろありますが、「自称コンサルタント」には、名乗ったその日から誰でもなれます。もちろん、ある程度の専門知識は必要ですが、学歴も経験も資格も、組織への所属も不要です。資格等が必須となっているコンサルティング業務もありますが、資格を有していても大して意味がないコンサルティング分野も多いのです。

ISOコンサルタントになる場合も、資格等は必要ありません
はいえ実際には、何の経験も知識も証明できないコンサルタントに仕事を依頼するのは不安でしょう。

そこで、ISOコンサルタントの場合「審査員」の資格をとるケースが多く見られます。審査員とは、組織とコンサルタントが構築したISOマネジメントシステムを審査し、ISOの認証書を出すことができるかどうかの判断をする立場の人です。

コンサルタントの中には、審査員とコンサルタントの両方の業務を行っている人が多くいます。日本には現在、50ほどの審査機関がありますが、そのどれか、あるいは複数に所属し、審査機関から派遣される形で審査員業務を行います。
ただ、必ずしも審査員の資格がコンサルタントに必要というわけではなく、逆に審査員になってもコンサルタントの仕事は行っていないケースも珍しくありません

私自身はISO 9001とISO 14001の審査員の資格を持っています。現在は、コンサルティング業務が手一杯のため、ここ何年も審査員としての業務は行っていませんが、審査の視点も備えてコンサルティングを行いたいという理由から、審査員資格は保持し、審査の勉強もしています。

私が審査業務をほとんど行っていないのは、時間的余裕がないという理由もありますが、認証取得代行業者ではなく、コンサルタントとしてISOに関わりたいという思いがあるからです。

審査員は、審査の前後に初めて「被監査組織」を訪れ、「その組織がISOを取得するのにふさわしいか否か」のみを客観的に判断します。たとえ「こうした方がいいのに」などと考えたとしても、それを口に出すのはご法度です。助言を行うのはコンサルタントの仕事です。

組織に深く入り込み、組織がどのような課題を抱え、どのようにすれば少しでも改善できるかを見て、一緒に認証取得というゴールを目指す、それができるのは「コンサルタント」だけです。

コンサルタントの課題

私はこれまで百数十社の企業様に対し、ISO構築・運用支援コンサルティングを行ってきました。

ISOコンサルタントは、キックオフから認証取得までの一連の作業(主にマニュアル作り)が済むと、支援企業様との縁が切れてしまうことが多いのですが、私の場合、認証取得後の企業様から相談を受けることも少なくありません。

例えば、認証取得後に内部監査員研修を何年も継続して依頼されるお客様がいます。「今度、新たにセキュリティシステムを導入することになったので、マネジメントシステムを見直したい」と相談を受けたこともあります。また、認証取得済みのお客様から、取得後の活動がどうもうまくいかない、ということで、ISOの運用支援の依頼を受けることも数多くあります。

いずれも、単に認証取得するだけではなく、会社としてしっかりとしたシステムを築いていきたい…と前向きにISOを捉え、しっかり活用していこうとしている企業様す。

私のコンサルティングを受けていただいたISO事務局の方、経営者様、パート・アルバイトを含めた一般社員の方から、「ISOがこんなにわかりやすいとは思っていなかった」とよく言われます。
それは、組織の中に既に眠っているISOの種に、組織の皆様自身が気づかれたからです。
私は、組織の中のISOの種を掘り起こし、土壌を整え、花を咲かせるお手伝いをしているだけです。

ISOはそもそも組織の経営をよくするための仕組みです。それを正しく理解し、会社のそれぞれの事情に合わせてコンサルティングをすること、それが私が考えるISOコンサルタントの仕事です。
どんな会社であっても、ISOで会社の経営改善につなげていくための道は必ずあります。ISOで成功している会社は、広い視点を持って、さまざまな方法でISOを活用しています。

自分が持っているISOの知識を組織にそのまま渡し、認証取得代行を行うだけのコンサルタントか。
それとも、組織のそれぞれの立場を理解し、組織にあったISOの構築を導くコンサルタントか。

どちらが正しいとは言えないのが、今のコンサルティング業界の現状です。
しかし私は、少なくとも「コンサルタント」を名乗るなら、後者であるべきだと考えています。

コンサルタントに必要なこと

認証取得代行業務ではなく、コンサルティングを行うために必要なコンサルタントのスキルとは、これまでの経験やISOの知識、審査の視点だけでなく、「産まれてから今までのすべて」だと、私は考えています。

といっても、私は幼少時からコンサルタントになるための英才教育を受けてきたわけではなく、学生時代の専門が「ISO」というわけでもありません。何らかのコンサルタントを名乗る人々の中には、幼い頃から何らかの専門的なことに特化して教育、学習などをしてきたり、強い関心を持ってきた人もいますが、経営コンサルタント、特にISOコンサルタントには、そういった人は少ないように思います。

ただ、幼い頃から大学に行くまでの環境、大学院までで身につけた知識や専門性、ISOコンサルタントになるまでの業務、自分の趣味や趣向など、コンサルタントとしての自らのスキルとして役に立っていることはいくつもあります(詳しくは三村聡がコンサルタントになるまでへ)。

これらにプラスして役立つと思えるのは、私が「経営者」であることです。「有限会社の代表取締役」というのが私のポジションです。
経営者として最大の使命は、自分の会社を守ること。会社が潰れたら、その会社の経営者である自分自身も、そこで働く人々もその家族も潰れてしまうことになります。立派な理念を掲げ、優れた製品やサービスを世に送り出しても、会社が守られていなかったら何もなくなってしまいます。

会社を守るためには、経営をしっかり行い、行い続けなければなりません。 かつて、IT起業家が雨後の筍のように出てきては消えていきました。時代の流れによって、瞬間的に儲けても、やがて淘汰されていきます。
私も自分の会社を守り、守り続けていくために必死で頑張りました。時代も周囲の状況も変化していく中、ISOコンサルティング会社としてのポジションを守り続けました。
もし経営者でなければ、絵空事ばかり述べていたかもしれません。経営者としてのその立場は、ISOコンサルティングを行う上で大きな影響を与えていると言えます。

コンサルタントとして仕事するようになってからも、四六時中ISOのことばかり考えているわけではありません。好きな野球チームを応援し、酒を飲み、歌舞伎や演劇を見たり博物館や美術館に行ったり、愛犬と旅行したりしています。電車に乗り、ゴミ出しをし、ペットボトルのお茶を飲み、整体に行き……。 日々、いろいろなことを経験しながら生きていますが、コンサルタントとして、その全てがスキルだと思っています。

「コンサルティングの仕事をする人」ではなく、「コンサルタント」という気持ちで、私はコンサルティングを行っています。