ISO 45001の基本的な目的と考え方、要求事項に沿った規格を理解しておきましょう。「労働安全リスクとハザード」については図解で解説。
ISO 45001の目的を知っておこう
企業活動の中で労働安全衛生上のリスク(事故)が発生した場合、事後対策に膨大なコストが生じ、生産活動にも支障をきたします。
また、取引先、顧客、社員とその家族からの信頼を一瞬にして失い、管理者・経営者の責任が問われ、社会的批判や裁判・制裁を受ける事になりかねません。
このようなリスクを防ぎ、「働く人の労働に関係する負傷及び疾病を防止すること。及び安全で健康的な職場を提供すること」を目的として、ISO 45001は発行されました。
組織全体に労働災害の防止の仕組を適用し、労働者の福利厚生や組織の効率を向上させるための「労働安全衛生リスク及び労働安全衛生機会を管理するための枠組み」となっています。
知っておきましょう。
ISO 45001ですべきこととは?
規格要求事項に沿ってISO 45001を理解しよう
ISO 45001は、ISOマネジメントシステム規格のISO 45001規格要求事項に沿ってPDCAサイクルを構築します。
ISO規格要求事項は、すべてのISOマネジメントシステムで共通の構成(全10章)となっています。
システム構築に関わるのは、4章~10章ですが、他のISO規格と共通(類似)の部分と、規格独自の内容が書かれている部分があります。
ISO 45001では、特に6章「計画」で労働安全のリスクについて対策を立てることがメインとなっています。
組織内の労働安全上の事故につながる可能性のある「危険源」を調べ、危険源を削減するための対策を計画するまでが6章、その対策を実行していくのが8章、というのがISO 45001のざっくりとした流れです。
以下では、PDCAの流れに沿ってISO 45001規格をざっくりと説明しています。
他のISO規格と共通(類似)の内容についてはリンクを貼っていますので、リンク先をご覧ください。
Plan
組織について整理する(4.1~4.4)
組織の「こうありたいと思う形(あるべき姿)」について明確にし、組織を取り巻く様々な状況(外部・内部からの課題、働く人や利害関係者からのニーズや期待)をまとめます。
これらを考慮したうえで、適用範囲(ISO 45001を組織のどの範囲で構築するか)を決めます。
リーダーシップを明確にする(5.1~5.3)
- ISO 45001では、労働に関する負傷や疾病を防止し、安全で健康的な職場と活動を提供することに対してトップマネジメント(経営層)が強くかかわり、説明責任を持つことが求められます(コミットメント)。
- トップマネジメントは、労働安全衛生目標を「労働安全衛生方針」で表明します。 各役割の責任や権限をについて、組織図や業務分掌を整えて明確にします。
- また、働く人が協議及び参加できるよう、プロセスを確立します。
計画を作る(6.1~6.3)
ISO 45001では、「労働安全衛生」の観点から、以下の3つの事項について評価し、具体的な活動計画を取りまとめます。
1.労働安全衛生に関するリスク及び機会を評価(リスクアセスメント)
1)危険源(ハザード)を特定する
- 労働安全衛生につながる恐れのある、あらゆる危険源を特定する(作業シフト、緊急事態、人間関係やハラスメントを含む)。
2)労働安全衛生リスクを評価する
- 危険な事象やその結果などの危険源(ハザード)から発生しうる労働安全衛生リスクを評価する。
- 労働安全衛生リスクの評価の方法と基準は各社で自由に決めてよい。
- 問題が発生してから対応する(リアクティブ)ではなく、問題が発生す前に対処する(プレアクティブ)な方法及び基準を採用する。
- 「発生する可能性」と「結果の重大性」を考慮する。
ハザード(危険源) | 労働安全衛生リスク | |
用語の定義 | 負傷及び疾病を引き起こす潜在的根源 | 労働に関係する危険な事象又はばく露の起こりやすさと,その事象又はばく露によって生じ得る負傷及び疾病の重大性との組合せ (危険源から発生しうる負傷及び疾病をさす) |
事例 | 圧縮工程における機械操作 | ベルトに手指が挟まれる |
運搬作業でのリフト操作 | 台車から荷物が倒れて怪我をする |
3)労働安全衛生機会を評価する
- 労働安全衛生リスクの評価を踏まえて、改善策(労働安全衛生機会)を検討する。
- 労働安全衛生機会の有効性(リスクがどの程度低減されたか)を評価する。
リスクアセスメントにおいて大切なことは、「労働安全においてリスクとなりうる要素」を、まずは全部抽出することです。
「全部抽出しても管理できない…」という理由で抽出しないケースが時々見られますが、それでは意味がありません。
ただし抽出したものを、すべて管理の対象にする必要はありません。
また「影響が大きい」「リスクが大きい」とされたものに対しても、一様のレベルで管理を行なうわけではありません。
「重大なリスクの要素があるものは、すべて重点管理をする」という単純な発想ではなく、リスクが起きる「原因」「相互関係」「過程」などを総合的に考慮したうえで、リスクをどのように抑えていくかを決めます。
ISO 45001は、自社ではどのような事故の可能性があるのか把握することで、「しなくてもいい管理」は行わず、「すべき管理」「した方がよい管理」だけを行う、効率のよい労働安全対策です。
2.その他のリスク及び機会の明確化
組織のあるべき姿を目指し、システムを整えても、未来永劫それが達成できることはありえません。
ISO 45001では、現場作業におけるハザードだけでなく、その他のリスク(マネジメントシステムの運用を通じて発生しうるリスク)も考慮することが求められています。
組織が「予期しない状況」について「リスク」あるいは「機会」と捉え、どのような機会やリスクがあるか、予期しない状況が生じたとき組織はどのように対処すべきかについて計画していきます。
3.法的及びその他の要求事項の明確化
ISO 45001では、活動(工程)や危険源毎に該当する法律をリストアップし、遵守事項等を把握することが求められています。
労働安全衛生に関する法律は多岐にわたり、法令規制要求事項では、設備の届出制度や作業者の資格制度、禁止行為などが明確になっています。
これらを逸脱すればコンプライアンス違反となり、また、禁止行為等を準拠することで安全性が高まることにつながります。
支援体制を整える(7.1~7.5)
- プロセスを管理しリスクや機会に対応するために必要な支援体制を整えます。
- 組織内の資源(人材、インフラストラクチャー、環境、監視測定機器、知識など)、人々の力量や教育訓練体制、コミュニケーションの方法など
- これらを組織内の人々が共有し、組織外(第三者)に対して明確に示すために、必要な事項について文書化します。
Do
運用するための計画や手順を整える(8.1~8.7)
- 明確にした危険源及び労働安全衛生リスク(6.1~6.3)に対して、実際に組織の各部署や各担当でシステムを運用できるように、具体的な計画や手順等の運用方法を整えていきます(危険源の除去、代替案への変更、工学的対策、教育訓練、個人用保護具など) 。
- 運用中に変更が発生した場合に、危険源及び労働安全衛生リスクに影響がないかどうかを確認します。
- 社内の作業者だけでなく、請負者、外部委託先の管理も考慮する必要があります。 そのうえで、実際にトラブル等が発生した緊急事態へのプロセスを管理する必要があります。
Check
評価する(9.1~9.3)
- 労働安全衛生リスクを管理する過程(プロセス)に問題がなかったかどうかを、指標を決めて評価できるようにします。
- 法的要求事項を遵守しているかどうかも評価します。
- それらの結果をトップマネジメントに報告し、トップマネジメントは改善方向を指示して、プロセスを見直します。
Action
改善する(10.1~10.3)
- パフォーマンスを評価した結果、計画がきちんと実行されていない場合や、実行されていたとしてもさらによい方法があるか考えるために、改善を行います。
- トラブルが発生した場合に備え、その処置法と是正処置について決めておきます。
- ミスやトラブルといった不適合に限らず、時代の流れや組織を取り巻く様々な状況の変化に合わせ、システムを絶えずアップデートしていく仕組みを作り、マネジメントシステムを最適化していきます。 そのため、実際に発生したトラブルだけでなく、インシデントも管理対象に加え、予防処置の要素が強いのがISO 45001の特徴となっています。