設計開発で顧客の要求を満たすことを理解しておきましょう。製造業だけでなく、サービス業、OEMで設計開発に取り組むには?

8.3 製品及びサービスの設計・開発(抜粋)

組織は、以降の製品及びサービスの提供を確実にするために適切な設計・開発プロセスを確立し、実施し、維持しなければならない。

設計・開発とは

設計開発とは、顧客に新たな製品、サービスを提供するためにすべきこと

設計および開発(8.3)は、原文では「design and development」となっています。この言葉から「機械や薬品などを開発すること」といったイメージが持たれることもありますが、ISOでの設計及び開発はそれだけではありません。

設計および開発とは、顧客のニーズに合わせて仕様を確定する際に、どのような手順で行うかを整理することです。

ISO 9001の要求事項「8.2 市場ニーズの明確化、顧客との交流」では、顧客とのコミュニケーションを通して、顧客の要求を明確に確認します。
顧客からの要望を受け、自社で提供するものが存在しない場合に、新しい製品やサービスを作っていく過程が「8.3 設計開発」です。

例えば、こんな設計・開発があります。

  • 既存製品・サービスでは対応できない場合、新たにニーズにあった製品サービスを開発したり新製品を作る
  • 製品やサービスを新しくアレンジしたり改良する
  • 顧客からの要求を受けて、新規に製品やサービスを提供できるようにする など

まずは顧客の要求を明確にしよう

設計開発をするときには、まず顧客の要望を明確にし、自社で対応できるか検討します。
自社で対応できなければ、OEMやアウトソース先を選ぶなど、要求の内容を吟味します。
製品やサービスに問題がないか、実現できるかどうかを見定めたうえで、作り込みを行い、顧客の了解等を得ながら提供していきます。

顧客要求を満たすだけでなく顧客満足を追求する設計開発をしよう

設計・開発とは何か、何をすべきか考える前に、ISO 9001の基本姿勢を思い出してください。
それは、「顧客満足度を高めていく」ことです。
顧客の要求事項を満たすのは当然のこと、顧客の期待を「良い意味で」裏切っていくことも大切です。顧客の期待を裏切って(超えて)いくために何ができるかを考えるのが「設計・開発」プロセスと考えればよいでしょう。

リスクを考慮するためにも、「今のままの顧客満足」と「これからの顧客満足」の両方に備える必要があります。そのためにも、従来の商品やサービスだけでなく、顧客のニーズにこたえられるよう、常に新しいことにチャレンジしていくことが求められます。

3つのオーバーを見直してみよう

顧客満足は大切なことですが、これを「顧客の言いなりになる」ことと取り違えてしまうと、自社の首を絞めることになり、結果的に顧客のニーズにも応えられなくなってしまいます。
設計開発を行う際は、顧客がどんな仕様を求めているのかと同時に、自社で無理なく対応することができるかを確認することが大切です。
トラブルが起きるのは、以下の3つのオーバーが原因になっていることが多いので、見直してみましょう。

  • 1)オーバースペック(過剰仕様)
    • 製品の仕様、納期、生産量など、顧客から依頼された内容が、自社にとっては過剰になっていることがあります。無理なオーダーに応えるため、無理のあるオペレーションを行うと、トラブルや不正が発生してしまいがちです。
  • 2)オーバークオリティ(過剰品質)
    • 顧客が要求していないのに、「顧客に喜んでもらうため」と自社で高い基準を設定し、過剰なものづくりやサービスを行う場合があります。それ自体は悪いことではありませんが、「基準を満たしていなくても問題ないのでは?」と、自社基準を逸脱したものを提供することにつながっていきがちです。
  • 3)オーバープレッシャー(過剰圧力)
    • 顧客に対し、自社のキャパシティーを超えたサービスを行おうとすると、サービス残業など現場に過剰なプレッシャーをかけることになることがあります。これも不正やミスが生まれる原因です。

様々な「設計・開発」

設計開発を広い目線で考える

設計・開発については、ISO 9001の要求事項「8.3」にまとめられていますが、それ以外の項にも「設計・開発」の内容が含まれています。

8.2以外で設計開発に取り組む例

  • 「8.2 製品およびサービスに関する要求事項」で顧客の要求事項を理解し、自社として追加すべきことを考える
  • 「8.5『製品およびサービスの提供」で製造プロセスの段階で試行錯誤しながら製造基準を検討する

「設計・開発」という言葉にとらわれるのではなく、このような認識も踏まえて「顧客の期待を超える」ことを考えてみましょう。

サービス業、OEMの設計開発

製造業などの成果品が「モノ」である場合については、「設計」がどんなもので「開発」は何をするかのイメージがつきやすいのですが、サービス業等では「自社には設計・開発がない」とか、何をすればよいのかわからないというケースも多いようです。
「設計・開発」という用語が、いかにも製造業の現場で使われる言葉であり、例えば飲食店や美容院等ではまず登場しないことが、その理由だと思います。
また、OEMなどの形態の組織も委託先の要求通りに製品を作ることが求められるため、勝手に開発できないし工夫のしようもない、と困るケースも。

確かに、使い勝手を良くしようと製品を改造したり、新製品を作ったりといった「設計・開発」は難しい部分があります。
しかし、「顧客満足を追求するために何ができるかを常に考える」という意味では設計・開発プロセスそのものは必ずどの会社にも存在します。

製造業以外の業種で取り組む設計開発の例

  • 飲食店では…新しいメニューを作って提供する
  • 倉庫業では…新しくチルドゾーンを増やし、取扱いメニューを増やす
  • ホテル業では…顧客のニーズに合わせて利用プラン(深夜割引、昼間ショートスティ利用など)を提供する

まずはどんなふうに「8.3」を適用できるか考え、取り組んでみましょう。
そして、「8.3」の範囲に捕らわれず、「8.2」「8.4」「8.5」など、会社の業務プロセスに併せて柔軟に適応させていくことも考えてみましょう。