著しい環境側面を管理するために。環境目標を決める手順について理解しておきましょう。
ISO 14001では、環境へ影響を与えるもの(環境側面)をすべて認識し、それを何らかの方法で管理することによって、利害関係者に「望ましくないもの」を与えないようにします。
管理の方法には、数値などで目標を決めて管理を行うものと日常的な業務の中で管理を行うもの2つがあります。
ここでは目標管理について解説します。
目的目標を決めて環境側面を管理する
組織全体での戦略を計画として明確にしよう
著しい環境側面を削減するため、「電気の使用量を○から○へ削減する」といった、環境目標を設定し、具体的な計画を立てて実現していきます。
日常的、あるいは単年度で行う環境活動計画ではなく、例えば「設備をリニューアルする」といった長期計画を立て、組織全体が戦略的に目標達成を目指します。
環境目標を立てる際に考慮すべきこと
- 組織の著しい環境側面を管理する
- 著しい環境側面は「目標管理」によって環境影響を削減することが基本ですが、著しい環境影響を与える場合でも、対策が難しいこともあります。
- 事業上やむをえなかったり、影響を低減することも発生を抑えることができないものに対しては、日常業務の中で管理を行いましょう。
- 例えば浄水場の場合、飲み水が増えれば沈殿する汚泥も発生するため、汚泥を著しい環境側面としても、実際には削減することは不可能です。このような場合は、日常的に管理を行うことによって、悪化させないように経過を監視するなどの取り組みを行ないます。
- 目標は「技術上、財政上、運用上、利用上の要求事項ならびに利害関係者の見解」も含めたうえで決定します。環境のために無理な投資を行うのではなく、コストをかける必要性を検討したうえで、自社としての目標を考えましょう。
- 関連する順守義務
- 法的要求事項も取り入れた目標を立てます。
- リスクと機会
- リスクの発生要因を明確にすることで、原因を取り除くための対策が考えやすくなります。現状より悪化しないような環境目標を設定します。
目標達成にむけて決めておくべきこと
環境目標を達成するためには、何を(実施事項)、何を使って(資源)、誰が(責任者)、いつ(実施事項の達成期限)、どのような(結果の評価方法)を明確にします。
監視・伝達・更新・文書化を行おう
目指す方向がぶれないようにするため、環境目標は明文化(文書化)し、組織の管理下で働く人々に周知されるようにします。
計画は立てっぱなしではなく、必ず結果の評価を行い、立てた目標をに対してしっかりと管理を行うようにします。
環境目標を『SMART』の視点で考えてみよう
環境目標を曖昧なものではなく、具体的に設定し、達成していくための手引きとしてSMARTというキーワードがあります。
- Specific(その部門・部署特有のテーマである)
- Measurable(達成できたかどうかが判定可能である)
- Achievable(到達できる)
- Realistic(現実的に出来る)
- Timely(一定の期間内で達成できる)
※『SMART』の単語については諸説ありますが、ここでは上記の用語を使用します。
たとえば、全社として今年の環境目標は電気の使用量の削減率を「8%→7%」にするといった目標を決めるとします。
電力の削減は、電気の使用量などが測定可能で、1ヶ月の傾向などを見ながら環境目標の達成を評価することができるため、達成できたかどうか判定可能(Measurable)で、一定期間で(Timely)で到達できる(Achievable)現実的な目標(Realistic)だともいえます。
しかし、「各部門・部署に特有(Specific)」でしょうか?
Specificとは、全社で同じ目標を決めるのではなく、各部門や階層ごと(部や課など)に環境目標を設定することです。現代では、ほぼすべての業務、職種において何らかの電力を使用しており、各所で何らかの電力削減を目指すこともできるため、「特有のテーマではない」とは言い切れませんが、「すべての部門」が「同じ目標」を立てることは、不自然ではないでしょうか。
日中ほとんど人がいない「営業部」は、電気を消すことで「ムダをなくす」ことができますが、「事務部門」には電気が必要です。さらに「製造部門」においては、機械を動かすためには電気を使わないわけにはいきません。
全社でISO 14001に取り組んだとしても、全ての部署が判で押したように同じ目標に向かって頑張るのは、現実問題として不可能なはずです。
全社上げて「電気は消しましょう」という目標を定めるのではなく、部署ごとに環境目標を決め、活動する意味を考えることが必要です。
部署によって「省エネ」の意味が異なることを理解しましょう。
環境目標をプロジェクト的に考えよう
ISO 14001に取り組み始めた当初は、周知徹底を図るという意味で、省エネなどを目的目標にしてもかまわないでしょう。
しかし本来、組織が定める環境目標は、単なる「スローガン」として日常的な環境活動を行うことではありません。ある目的を達成するために、手段を選定し、効果の検証をし、最終的に目標達成する、といったプロジェクトとして考えることが望ましいといえます。
省エネ活動として、昼休憩は消灯するという目標を決め、担当者は誰、取り組み範囲は何月から何月までと特定するケースがありますが、これは日常的な活動の中で行っていくことではないでしょうか。
ISOに取り組んで数年経ち、従業員の環境意識も向上したときは、組織として意味のある目標を定めるようにしていきましょう。
実は、電気の使用量を減らすのは、難しいことではありません。機械を稼動させることで電気の使用量が増えるなら…稼動させなければよいのです。
つまり、働かなければ(残業などせず、作業時間を短縮すれば)電気も減らない。簡単でしょう?
…というわけにはいきません。
事業を停止すれば会社は成り立たちません。むしろ事業にきちんと取り組めば、環境負荷が生じるのは当然です。
ここが、環境活動と生産活動を並行して行う際の難しさです。
しかし、これは環境の問題ではなく、残業しなければ効率が落ちるような生産計画を立てていることに問題があるのではないでしょうか。いきなり「電気を消す」という結論を目標とするのではなく、組織の活動全体を見直すところから始めてみましょう。
目標の意味を理解しておこう
環境に優しい企業になるための環境目標のはずが、いつの間にか目標を達成するための環境目標になってしまうこともあります。
例えば電気の使用量を「削減する」という目標を定めても、いつしか「削減すること」が目標となり、予定通り減らせない場合は「目標達成できる数字に変える」などをの小細工をするケースもあります。
環境影響を悪化させない活動は必要ですが、本当に削減する意味があるかどうかを、まずは検討してみましょう。
また、「環境に負荷をかけない」という本来の目的を、組織に関わる全員が理解するも大切です。「何のための目標なのか」という理屈付けを行うことで、各従業員、協力会社に理解してもらようにしましょう。