トップマネジメントがすべきこと、ISO 9001の品質方針の考え方について理解しておきましょう。

5.1 リーダーシップ及びコミットメント(抜粋)

トップマネジメントは、品質マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。

ISOのリーダーシップについて理解する

ISOではリーダーシップが重要視される

ISOでは、経営者(トップマネジメント)のリーダーシップが非常に重視されています。
なぜなら、組織の運営管理をうまく機能させるためには、達成すべき目的(品質・顧客満足)や進むべき方向性をはっきりさせて、必要な資源を投入することが不可欠だと言えるからです。

リーダー(トップマネジメントや管理層)が組織の目標を掲げ、従業員はそれを達成するために各々がすべきことを行う、というのがISOの形です。

トップマネジメントは「説明責任」を果たす

トップマネジメントに求められているのは、ISO規格の隅々まで理解していたり、マネジメントシステムの構築に携わったり、といったことではありません。
リーダーシップの意味には、「率先的に行動する」といったことももちろん含まれますが、ISOマネジメントシステムでは「説明責任を持つ」ことだとされています。

リーダーは、
「このような課題を考えているが、私達はこういう会社を目指そう」
「世の中にはこんなニーズがあるので、このニーズに応えるために、自社の課題をこのように克服して、このような取り組みを行おう」

といった具合に、組織の内部外部の課題(4.1、4.2)を踏まえて、自社で目指すもの(意図した結果)を明確にします

トップマネジメントは「方針」を宣言する

リーダーは、「自社はこういったことを目標にしている。それを達成するためにISOに取り組む」ということを理解し、それを「方針」という形で宣言します。
トップはもちろんのこと、管理責任者、各部門の管理職、それぞれが当事者意識を持って、自社の課題をどのように克服し、どこを目指すのかについて理解し、自分の言葉で説明できるようにします。

「シェアNO1企業を目指し、業界の推進者となる」
「地域に貢献する会社にする」
「従業員とともに成長する会社であり続ける」

このようなことが「方針」です。

トップマネジメントは「コミットメント」する

このようなトップマネジメントの宣言を「コミットメント」といいます。

コミットメントとは、日本語に適切な言葉がないのですが「積極的約束」「主体的関与」と訳されることが多く、強い約束とか積極的な約束といった意味。約束ほど軽くないが契約ほど重くないニュアンスで、「私が責任持ちます」「私が必ず実現するので私を信じてください」といったイメージです。
契約のような形式張ったものではなく、従業員や顧客、利害関係者等に対するトップマネジメントの「姿勢」そのもの、と考えてみましょう。

トップマネジメントは、現場の状況を理解し、それに対して積極的に支援し、リーダーが関与しているということを説明できるようにします。

方針で自社の「あるべき姿」を方向づける

ISO 9001 5.2 品質方針の策定(抜粋)

トップマネジメントは、品質方針を確立し、実施し、かつ、維持しなければならない。

品質方針で会社の目指すべき姿を明確にする

ISO 9001では、現状認識をもとにあるべき姿を明確にし、組織の状況と戦略的な方向性が両立できるような「品質方針」を文書化することが求められてます。

「品質方針」と聞くと、「品質」いう言葉のためか、製品やサービスの質の向上にばかり目が行き、現場での取り組みに関するものに限定してしまうことがあります。
しかし、ISO 9001は「製品」の質ではなく、「経営」の質を向上させるシステム。自社の経営理念を、そのまま方針に反映させていけばよいでしょう

ISOは、経営理念や方針を考えるきっかけになるだけでも取り組む意義があると言えます。品質方針などの意図や方針に込めた自分の思いなどを、きちんと第三者に説明できることが、会社の土台となります。
方針と言っても難しく考えることはありません。社長個人の座右の銘でも構いません。
大切なのは、トップマネジメントが目指すべき姿、会社の目指すべき姿をイメージし、それをはっきりと社員に示していくことです。

理念、社是、方針の位置づけを知っておこう

組織にはすでに、社是や経営理念等が存在していることもあります。
会社によって異りますが、理念、社是、方針の位置づけは以下のようになります。

  • まずベースとなるのは、経営理念(企業の経営や活動に関する基本的な考え方、価値観、思いなど、企業の存在意義を指すもの)
  • その理念をもとにしたのが、社是(会社・結社の経営上の方針・主張であり、目指すべき方向性を言語化したもの)
  • 社是を実現するための活動計画となるのが、方針・目標

方針は、理念や社是で「代用」すること自体は構いません。
ただし、マネジメントシステムを活用し、業務の中で役立てたいなら、より具体的な方向性を示したものにする方が、意味のある方針になるでしょう。

品質方針から計画策定までの流れを理解する

ISOマネジメントシステムでは、自社の課題や目標を、4章から5章にかけて以下のように整理します。

  • 自社を取り巻く業界の現状認識を明確にする(4.1 組織)
  • 関連する業界を調査する(4.2 利害関係者)
  • 自社の強み・弱みを分析する(4.1 組織)
  • 「将来のあるべき姿」を考える。(5.1 リーダーシップとコミットメント)
  • 方針として明文化する(5.2 品質方針)

上記を踏まえ、あるべき方向性としてビジョンを示したものが、具体的な行動計画を策定する「6章」となります。ここも含めて「方針管理」と考えてみましょう。

  • 現時点と比べて不足しているものを明確にする(6.1 リスクと機会の特定)
  • 長期、中期、短期でどのように補っていくかを考えていく(6.1 リスク対応策)
  • 5W2Hで具体的な活動計画を落として進めていく(6.2 目標管理)

方針を形骸化させないために

改善方法がわかっていても、費用等の関係で実現が難しいときもあります。しかし「お金がないのでできない」とあきらめるのではなく、現在とり得る最善の策を検討することが大切です。「ベスト」でなくて常に「ベター」を目指すようにし、現場の実情と経営バランスを一致させます。

大切なのは、自分の目指すべき姿、会社の目指すべき姿をイメージし、品質方針や経営理念という形にして、はっきりと社員に示していくことです。

リーダーの気風はそのまま社風となります
リーダーシップが企業を、取引先や社会情勢の変化に流されてしまう「依存型」から、自社のポリシーを持った「自立型」に導きます。