適用範囲はどのように決定する? 範囲の決め方とその根拠について理解しておきましょう。
「適用範囲」は会社全体? 一部だけでもOK?
ISOの認証取得に当たって、例えば本社の他に事業所がある場合、または製造部、営業部、事務部門といくつかの部署がある場合、どの範囲を『適用範囲』とすればよいのでしょうか。
そもそもISOを構築する場合、「会社の仕組みは1つである」というマネジメントシステムの考え方から、全サイト、全部署、および全製品及びサービスで取り組むのが原則です。一部の製品やエリアだけを適用範囲にすることは望ましくありません。
では、一部で取り組むのは不可能なのか、というと、そういうわけではありません。現実には、従来と同様に適用範囲を組織の判断で決めることができます。
ただし、適用範囲の決め方について理解したうえで取り組むことが求められます。
適用範囲を決定する際には「根拠」が必要
適用範囲は、組織の課題(要求事項4.1)や利害関係者のニーズ(4.2)に照らし合わせて決定することが求められています。
つまり「この製品、部門を適用範囲とする」ことで、組織の課題を解決し、目的を達成することができると認識されていること。
または「この製品、部門を適用範囲としない」ことで、組織の目的を達成する妨げにならないとされていること。
適用範囲は、以下の項目を考慮した上で決定します。
- 内部および外部の課題
- 人材不足などの社内の課題、高齢化などの社会の課題などが、組織にどのような影響を与えるかを考慮する。
- 利害関係者のニーズと期待
- 顧客から求められている、あるいは今後求められるであろう製品やサービスを考慮する。
- 製品およびサービス
- 強化したい製品やサービスを考慮する。
「B製品は簡単に取得できそうだから、B製品だけで認証取得したい」
「品質、技術、製造しか関係ないため、事務部門を組織や活動からはずそう」
と、単純な判断で決めることはできません。
適用範囲を決めた根拠、ある部署をはずした根拠が必要です。
「根拠」に基づいて適用範囲を決めよう~A社の事例
製造業を営むA社では、ISOを取得するにあたり、当初は「製造部のみ」を範囲に定め、営業部を除外しようと考えていました。
しかし、A社には製造部の効率の改善とともに、「人材育成」という課題もありました。顧客からも人材についてのクレームを受けることも多かったのです。
そこで、内部・外部の状況および、顧客のニーズに応えるため、営業部も含めて全社でISO取得することを目指すことにしました。それにより、会社全体で単なるものづくりだけでなく「人材」を育てていくという姿勢を、社内外に示したのです。
根拠を「説明」できるように
適用対象となる製品およびサービス、または適用除外の範囲が妥当であることを示すため、審査機関によっては「4.1 組織」「4.2 利害関係者のニーズと機会」を踏まえて適用範囲を選んだという設定根拠(文書)が求められることもあります。
「文書化」というと、また書類が増えて面倒だとか、「審査で指摘されないよう形だけの文書を用意しておこう」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、なぜ、ここまで根拠の明確化が求められているのでしょうか。
外部、内部の状況を踏まえて適用範囲を決定することは、組織に存在する弱みを強みに変え、組織を取り巻くリスクを機会に変えるために欠かせないからです。
組織としての状況やニーズを把握するのは、経営状態を決めるときに必ず行っているはずです。我が社の製品はこのような理由で伸びる理由があるということを、しっかり把握しておくのは当然のことです。
適切な適用範囲を定めることで、「自社は何を目指すのか」を明確にすることが求められていると言えます。
ISOをもっと理解する!